Secret 年代記

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双珠の章


T-9

 崔繍王都雪渓にそびえる白亜の王城、その内郭の最奥にある内宮の最上階。その王の居室で、俺は重い身体を起こした。
 あの戦いが嘘のような静けさだ。
 もっとも本当に、あの戦いはちょっとした義伎の内紛扱いで処理されており、俺があの場にいたことはおろかあの友軍が戦いに関わった事実でさえ、非公式だ。
 ここ数日俺らしくもなくベッドに張り付いていたが、さすがに休んでばかりもいられない。
 とはいえ、まだ本調子ではない。息をついたところで、扉がたたかれた。
「響様」
「入れ」
 雪架が遠慮の欠片もなく床のものを踏みながらベッドの横まで来る。
「本日の予定を申し上げます」
 つらつらと予定を述べる雪架を、思わず遮る。
「おい、病み上がりなんだ、少しは休ませろ」
「少し? 具体的に示していただけないなら、許可はできません。あなたのことです、ずるずると休むに決まっています」
 さすがに有能だ。雪架には俺が分かっている。
「じゃあ、昼まで」
 無理ですね。というかと思うと、意外にも雪架は思案顔だ。
「……分かりました」
「なんだよ、珍しい」
「やはりなかったことにしましょう」
「雪架はやさしいなー」
 とっさに言うと、雪架は嘆息する。これも珍しい。
「休んだら、2倍仕事をしていただきますからね」
「おいおい、人使い荒いぞ?」
「響様ほどではありません」
 これには言い返せない。俺も人使いの荒い自覚はあった。
「助かってる、いつもありがとう、雪架」
 すると驚いた顔をして、俺を見つめ、かと思ったらさっと目をそらす。
「……いいえ、私の務めですから」
 これは面白い。雪架に素直に礼をいうと、こういうことになるのか。
「……響様、何か?」
「いや、それより仕事だったな」
「響様……殊勝で結構ですが、裏がありそうでいやです」
「馬鹿、主人を疑うな」
「まぁ、仕事さえしていただけるならどこへ行っても何をやっても、ある程度構いませんけど」
「さすがは雪架だ」
 すると、またしても珍しく雪架は嘆息しながら、言った。
「一応は、信用します」
「一応かよ」
「あなたの言うことを全てうのみにしているようでは、あなたの補佐官など務まりません」
 相変わらず反論の余地もない。
「響様」
「まだあるのか……?」
「いえ……仕事はしていただかないと困るのですが」
 自分の分の仕事をまとめながら、雪架はさらりと言う。
「あまり無理はなさらないで下さい」
 あまりに思いがけない言葉に、俺はとっさに声がない。
 その間に雪架はきびすを返し、すたすたと部屋を後にしている。
 ……全くどうして、可愛い男だ。
 口元が緩む。それから、虚空へ向かって俺は言った。
「なぁ、刻の支配者。いい男だろ?」
『お前もな、響』
 思いがけず応えがあり、俺は笑う。
「当然だ」
 雪架が補佐官でいる限り、楽しく王でいられるだろう。
 俺は起き上がった。まずは安凍の連中に顔を見せに行こう、そう思いながら。


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