<第189代国王 涯>
Z.document(記録)
どんな風に後世に残るか、興味はなかった。
今、少しだけ気になっている。
どれほどだらしない王として記されるのか。
はっきりと愚王だと言われるのか。
それとも民の前でだけ取り繕った……臣下たちの努力によって作り出された偽物の姿が、残されるのか。
この私の本質を、私以外の誰が捉えられようか。
私にすら結局は捕らえることのかなわなかった、多くの私を。
私は死のう。
後世は、きっと幸福な時代になるだろうから。
私が生きていては決して訪れないその時代を、だから私は見ることはない。
遠い先の幸福を、私は夢見ることさえしないよ。
だって、意味のないことだから。
はじめからここは、私の生きる場所ではなかった。
どんなに幸福な時代でも、私は幸福に生きられないだろうね。
そんなふうに、思い込んでいるのだから。
思い込んでいることは、もうすでに完全な現実となってしまったのだから。
たくさんの侍女をはべらせ、侍従の武器の携帯を許した。
いくらでも隙を作った。
どんなことでも全て、洩れ聞こえるように。
舞台はいつでも整っていた。
裏で何が画策されているか知っていたものを、知らないふりまでしたというのに。
それでも、誰も私を殺してはくれなかったね。
だから、私は死んであげるよ。
死んで、この国を解放してあげるから。
第189代国王涯、その治世を遠果。
数多くの王たちの中で、最もその功績と悪評の少ない王の1人である。
彼の史書には書くべきことが見当たらないと、時代の記録者達は口をそろえた。
彼の時代、国はわずかに衰退したのみだった。
向上しない暮らしに民は不満を募らせたが、決して彼は暗愚な王ではなかった。
その国葬には、多くの民が参列したという。
遠果20年。
涯は毒杯をあおり、眠るようにこの世を去る。
初代国王より実に5千年ぶりに、何の理由もなく、自ら命を絶った王であった。
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