Secret 外伝

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8.Lonely


【2】

「ここは……」
 見上げた空は青く、風は心地よく、日は暑いくらいに照りつけている。
「亜良……ここが……」
 町の壁に書かれた文字が、それを示していた。
 オレを知るものは誰もいない。己のみ、信じられる場所……この道の先は、裏側の世界。
 1人で生きていけるのだろうか。
 こうしてただ1人になって、オレは思う。
 生きる意味は、自分で探すよ。
 母さん、だからオレは、強くなれないかもしれないけれど、自由でないかもしれないけれど、生きるから。
 そうだ……いつか、父さんが死んだ場所に行こう。
 父さんを殺した奴を、見つけ出そう。
 父さんも、父さんを殺した奴も、オレは憎んでいる。
 憎しみを、生きる糧にして──────生きよう。


「送ってあげたんでしょう」
「そのつもりで、そう仕向けたんだろ」
 少年が去ったすぐ後、男のもとに警備隊の服を身に着けた女性が訪れた。
「あら、ばれていた?」
 旧知の友のように、親しげに視線を交わした。
「……あの子が、陛下の……いや、前陛下の子どもか。随分、大きくなったものだな」
「そうね、あれからもう、7年経った」
「そんなに経つか……」
 2人の脳裏を、あの日、少年の父である国王を死なせた日の出来事がよぎる。
 悔やんでも仕方のないことだからこそ、どうしようもない思いは消えることがない。
「あの時……私が…………」
「言うな。それでは陛下に申し訳が立たん」
 その時、空間が歪んだ。現れたのは少年の祖父と、その補佐を担う者だった。
「旦那様、このような所へわざわざ……」
「久しいな、元気そうで何よりだ。ところで、皓が来ただろう」
「はい、しかし、たった今……」
「構わん。あの子が自分で決めたことだ」
 少年の祖父────国王は、すぐそばの椅子に腰掛ける。促されて2人もそうした。
「今のあの子は、城にいたところで何の意味もないかもしれないのでな」
 その、とうに60歳を過ぎているはずの王は、一見するとわずか40歳手前にしか見えない。
「何か、あったのですね」
 女は問いかけた。王はゆっくり瞬いて、悲しげに2人を見据える。
「あの子が、死んだ」
「あの子……って、まさか、そんな……」
 女は驚愕に目を見開く。
「待ってください、一体どうしてそんなことに……誰が、そんな…………」
 男は疑問を口にする。
 その両方に、王は静かに答えた。
「愚息の嫁……皓の母親が、死んだ。それが、彼女の願いだったからだ。願いを叶えたのは、皓だろう……私ではないからな」
「で……は…………あの子は、自分の母親を……?」
「自らの手で、殺した。彼女はあの愚息がいない場所にいることが、耐えられなかったのだろう……皓も、それを知っていた」
 覚えているのは、絶望に涙を流すことさえ出来なかった、娘の顔。
「結局あの娘には、つらい思いばかりさせてしまった」
 王は、彼女が生きる希望をとうの昔に失ってしまったことを知っていた。いつか、こんな日が来るのではないかと思ってやまなかった。
「皓にも、悪いことをした」
「……皓様は、大丈夫でしょうか」
「もし、命を落とすようなら、そこまでだということだ。皓も、国もな。あの子の力は計り知れない────巨大で、危うい。おそらく過去の王たちの中にもいるかどうかという、能力者だろう。刻の支配者が、そう言っていた」
「ですが、皓様はそれを自覚していらっしゃらないように思いました。完全に能力が覚醒していない状態と言えないでしょうか? そんな皓様の正体に気づいたものが、命を狙わないとも限らないのでは」
「信じろ、と言われたよ。自分の孫を、信じてみろとな」
 まるで全てを分かっているように、太陽のように笑った刻の支配者。
「信じてみたくなるから、不思議なものだな」
 この国の全てを見てきた者だからこそ、彼には分かるのかもしれない。
「さて、今日来たのは礼を言うためだ。皓に助力、感謝しよう」
「もったいない」
「ええ。本来なら、お叱りを受けるようなことです。こちらこそ、わざわざのお越しありがとうございました」
「そうか……私はそろそろ帰る。ソウ
「準備は整ってございます」
「ではな。2人もたまには城に来ないか?」
「いえ、私たちは……」
「城で、今出来ることなどありません。だから国から遠く、ここで見守っていることにしたのです」
 男が言うと、王は微笑んだ。
「いつか、かえって来るといい。お前たちも、国の民に違いないのだから」
「「では……」」
 2人の声が重なり、顔を見合わせると女が言う。
「皓様が国に帰られ、王となるその祝いの折には、必ず2人で出席させていただきます」
「それは、楽しみだな」
「はい」
 3人はそれぞれ笑顔で別れを告げた。
 再会の約束の日を、思って。


 廃墟の前、歩く気力が全くなかった。
 今日はとりあえずここで休もう。

 目を閉じていると、人の気配がした。
 危険は感じない。
 壁に背を預け、下を向いたままの姿勢で、まぶたをそっと上げる。
 足音は複数。その声は、子ども、だろうか。
 誰かが、オレの方を向いて言った。
「そいつは、何だ?」
 オレは頭を上げながら言う。
「あなた方の、住まいですか────?」
「ここは、オレ達の家だけど?」
「それは……すみませんでした」
 金糸の髪の子どもがいた。月光には青白いほどの肌と整った顔。その中で強い光を放っているのは、宝石のような碧眼。
 そしてなぜか、その顔には笑みが浮かんでいた。
「ねぇ……」
 ここからまた、オレの運命は動いていく。
「名前は?」

 あなたのいない、この世界で────。


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翆の呟き


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