【7】はじまり
「御母様」
深い深い雪の中、私を呼ぶ声は、あの人のものではない。
月夜に、冷たい雪に埋もれて、私の隣で、私達の子どもは美しかった。
銀色に輝く瞳。あまりにも強い、その光。
あの人には、なかった光。
「おいで、皓」
ほんの少し、柊に似てきた。面影があるのに、あなたは違う。
呼んでいるのは、
こんなに呼んでも絶対に来てくれないのは、あの人。
静かに目を閉じる。
「ごめんなさい、皓」
大切な、私達の子ども。
この国の、未来の王。
「強く……強くなって――――」
あの人のようにはならないように。
私のように、誰かが壊れ、悲しむ必要がないように。
皓の頬を、涙が伝った。幼い子どもの涙に似つかわしくない、美しさがあった。
静かに、声が。
「……我が名は晟 皓。刻の支配者よ、我が名の下、その力を発動せよ」
会いに、行くわ。
約束したもの。傍にいると。
「さようなら、母さん……」
愛しているわ、皓。
あなたは、あなただけは、どうか私達の分まで、生きて。
私はもう独りじゃない。
ずっと、ずっと、あの人といっしょに。
「皓様が! 皓様がいらっしゃいません、どこにも!!」
「落ち着きなさい、宗。あなたらしくもないわ」
柊王が死んでから、柊の両親は刻の力を利用して、文字通り国王夫妻に成り代わった。息子夫婦と入れ替わって政務をこなしているのである。
王妃であった夏濫は、柊王が死んでしまってから、ずっと淋しそうな、痛ましい笑顔を浮かべている。誰にもどうすることも出来なかった。
状況を危ぶんだ前王夫妻は、自分たちが死んだことにして、完全に入れ替わることにした。夏濫と若いころの皇太后は似ていたし、柊と上王はなおさらだった。滅多に大勢の前に姿を現さない王が、入れ替わることはさして難しくなかった。
「宗、皓は、城を出た」
それを聞いて、宗は愕然とする。再び王となったその人は、苦い顔で重ねて言う。
「夏濫さんが、亡くなった。そうだな?」
「はい……」
刻の呪いにかかった彼女が死んだ。つまり、皓は……。
いや、これから先は、皓の選ぶことだ。
彼女を責める資格など、誰にもありはしない。
「これでよかったのだろう。あの娘は、ずっと、こうしたかったのだから」
幸せを、今度こそ永遠の幸せを、手にしたかったのだから。
もっと、もっと、急いで行くわ。
あなたに、会いに――――。
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