第8話 懇願
死ねない呪い。
絶対的な時間の流れをせき止める、それは、────
「禁呪だ。呪いのかかった者の命を、肉体の寿命が尽きようと、その身体が朽ちようと、永遠に留める、そういう術だ。要するに、動く死体になれる。呪いが完全に発動する前の今の状態でさえ、オレは死ねないようになってる。これで発動すれば、オレは死ねないだけじゃなく、オレという存在ですらなくなる。オレという存在が、意識の奥底に消えてなくなる。そして魔物みたいに成り果てるらしい」
「っ、でも、確証はないんじゃ……」
迅は力なく笑うと、首を振った。
傍観していたゼルディアスは、無言でそれを肯定した。
「そうして、永遠の時間をさまようことになる」
「そん……な……」
「そして、解く方法は1つだけ」
その時の笑顔は、泣いているのとさして変わらなかった。
「オレが、死ぬこと」
「──────え?」
「刻の王の力で、呪い以上のその絶対的な力で、オレの中の時間を止めてしまうこと。それが、唯一の方法だ」
「……んな……、ことが……」
上手く飲み込めない。
刻の力は、支配者と共にある強大な力。
血統能力という名の呪い。崔繍王家のみが受け継ぐ、古の力。
「皓……もし、お前がオレの願いを叶えてくれるんだったら……」
続く言葉が予想できてしまった。だから、自己嫌悪に陥りながらも、迅にオレは、それを言わせたくないと思った。
「……オレを、殺してくれ……頼む」
うそだ。
「オレが、オレであるうちに……人じゃなくなる、前に」
予想していた言葉なのに、オレは全力で否定しようとする。
「うそ、だろ?」
「死にたいんだ」
うそだと、言ってほしい。
「オレを、死なせてくれ……」
迅の宝玉のような碧眼の中の、強い意思。
オレはどうしても応えることができず、迅はかすかな微笑を残してオレの部屋を出て行った。
「嘘だ」
オレの声だけが虚しく響く。
嘘だ。嘘だろう?
やっと回り出した頭で考えても、結局感情は同じところに行き着く。
考えても、それでも否定し続ける。
迅が、死ぬ?
『死にたいんだ』
オレが……殺す……?
オレが? この、オレが?
そんなことが、どうして……?
「すまない、皓」
「ゼル……嘘だろう……?」
「わしはお前に、これから起こる事など知らないと言った。未来を見る術はない、とな。それは本当だ。だが、わしはあの者がこの運命にあることを知っていた」
迅がそうしたように、オレの正面に立って、オレをのぞきこむ。ゼルディアスは視線を合わせるために膝を折っていた。
「あの呪いは、時間と大きく関わっているものだ。だから、知っていた」
「ゼル……オレは……」
定まらない思考が、オレの頭の中をかき乱す。
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