序
人は人を裏切る。
それはいつの時代も同じこと。
そうして生きてきた、人という生き物。
争い、血が流れる。
憎み、恨み────。
また人は、裏切る。
それが、人。
裏切りは、ここにある。
人が人であるが故に。
人であることをやめぬ限り。
心を、捨てぬ限り。
「どうなさいますか?」
そう問いかけた人物は、特徴の無いといって差し支えない、奇妙な雰囲気の壮年の男だった。酷薄な印象を抱く笑みを刻んだ唇が、淡々と言葉を紡ぐ。
男の問に、若いというにはあまりに達観した表情の女性が答えた。
「連れ帰れ」
「……生かして、ですか?」
かすかに意外そうに、彼は問う。
「そうだ」
「────では、そのように」
わずかな沈黙の後に返ってきた声には、感情も意思も感じられない。全てを消して、足音ひとつなく、男は部屋を出て行く。
「分かっているな? 余計なことは、するな」
その言葉の意味を十分に理解した上で、男は答える。
「余計なことなんて、しませんよ」
得体の知れない雰囲気はそのままに、彼は双眸を細める。
その手の中で、研ぎ澄まされたナイフが踊った。
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