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2章




 ────飛鳥大陸西の大国、崔繍。
 建国以来一度も遷都したことのない雪に包まれた美しい首都雪渓セッケイは、その名にある高山や渓谷が周囲にあるわけではない。
 その名の由来は、堂々とそびえる白亜の城の雄大さを山に見立て、その裾に広がる広大な雪原の蒼い雪が、崔繍にほんの一瞬訪れる夏にも溶けることなくはるか昔から今も大地を覆っている様を渓谷に重ねたからだという。
 しかしこの首都に名が付けられたのは、もう歴史にすら残らない遠い過去のこと。
 すでに短い夏も終わり、本格的な冬の訪れようとしているここ雪渓。
 結局のところ、真実を知るものなど誰もいないのかもしれない。何しろこの国に住む人ですら、この国が一体何年続いてきたのか誰1人自信を持って答えることが出来ないのだ。
 城下町は、冬支度を始める人々で忙しそうに賑わっている。
 走り回っていた子どもが、立ち止まって天を見上げた。
 はらはらと、粉雪が舞い始めていた────。


「……今、何と……?」
 壮年の男性は思わず聞き返していた。
「連れ戻して欲しい、と言った」
 覇気の失われていない老人は、静かに繰り返した。
 今にも雪に溶けていきそうな純白の調度品が、その静けさを余計に強調する。
 老人は薄い資料を男性に差し出した。そこには、1人の青年の顔とその所在が記されている。
 ────あぁ、よく似ているな。
 ちらりと見ただけでも、それが誰なのかすぐに分かった。
「どんなことをしても、必ず連れ帰ってくれ」
 ────なぜ?
 そう思ったが、男性は決してその疑問を口にすることなく恭しく頷いた。それは形式だけの礼ではない、心の底からその老人を敬い、仕えるが故の行動だ。
「頼みましたよ」
 傍らの老婦人が、そっと言う。
 線が細いのに、どこか芯のある女性だった。
 男性は顔を上げると、かの日の少年に思いを馳せる。
「確かに。確かに、承りました」

 男性は積もり始めた雪の中を行く。
 目的地はここ崔繍から馬車でおよそ1週間────大陸の南、佳永の町。


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